漁村ライフ

【中編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~白寿真鯛0が海外で評価される理由~

こんにちは!先日愛媛新聞に、赤坂水産やJABUROの取組がまるっと取り上げられていました。
白寿真鯛0やJABURO、輸出に込めた想いまで掲載いただき、本当にありがたいです。




また、150か国で放送されるNHK WORLDのFOODEX特集にて白寿真鯛0や品質規格プロジェクトを長い時間取り上げていただきました!


14分ごろからご覧ください


今回は、前編から引き続き、近年の養殖事情とその課題をお話し、その後、私が無魚粉飼料を通じて実現したいことをお伝えしようと思います。
めちゃくちゃ長くてマニアックな上に客観的なデータの乏しい私見のため、誰が読むんだという内容なのですが、偉い人の前でプレゼンする時などに便利なので、書き残しておきます。

前編はこちら
【前編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~もう終わりだよこの魚編~ | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)

前編のあらすじ
50年間で5倍に膨らんだ水産物需要に伴い、世界の養殖業の生産量は1985年から10倍に拡大しています。 (天然の増加率は15%程度で頭打ち)
一方、水産大国日本の養殖業の生産量は1985年から10%以上低下しています。 (天然は7割減
その理由がこちら

日本の養殖魚の生産量が伸びない3つの理由
養殖業も天然資源に依存していること
多くの魚種が一部の地域でしか育てられず生存率が低い


①、②の理由により、多くの魚種が生産を拡大することが出来ない中、あらゆる環境に対応できるタフな魚種、『真鯛』は、 多くの県で増産できる可能性を秘めています!

しかし、日本の養殖魚の生産量が伸びない最大の理由、”増産しても売れない(市場が飽和状態)”が課題として立ちはだかるのでした・・・
このことより、日本の生産者は真鯛をこれ以上生産すべきではない! というところで締めくくっていました。


真鯛サイクルの原因と対策


今回は、まず、前編で後回しにした「生産者がなぜ増産⇒供給過多による値崩れ⇒減産を繰り返すのか」(以降、真鯛サイクルと呼びます)、私の考えを述べていこう

と思いましたが!!

長くなりすぎたし、怒られそうなことも書いているので、補遺に回しました。
興味のあり方は下の方にある補遺Ⅰをご覧ください。
ざっくりとまとめたものがこちら

真鯛サイクルとは?
真鯛養殖が陥っている5~6年周期の以下のサイクル
真鯛の稚魚導入数を増加させる⇒2年後の出荷タイミングに丈夫な魚ゆえ供給過多になり相場が下がる⇒売れないので漁場が空かず、お金がないので稚魚導入数が減る⇒供給不足により2年後の真鯛の相場が上がる⇒漁場が空いておりお金に余裕があるので、真鯛の稚魚導入数を増加させる(以後繰り返し)


真鯛サイクルの影響
数年に一度、原価割れしてしまうため、大規模化・生産効率の向上が起こらず、原材料と共に長期的な販売価格が上昇、マーケットの縮小を加速する死のスパイラルへ・・・


真鯛サイクルの原因
製販分離構造に支えられ、生産者が販売量の増加が見込めるタイミングではなく生産余力があるタイミングで種苗導入数(≒将来の生産量)を拡大し、逆に需要が見込める局面で生産の余力がないため種苗導入数を減らしてしまうため(生産とマーケットの分離)

真鯛サイクルに対し現状取られている対策
①出荷のタイミングをずらす
②逆のポジションを取る
③ブランディングによる高付加価値化
全て個社の利益に結びついても、真鯛サイクルの解消につながるものではない・・・

真鯛サイクルを脱却することの意義と真の対応策

真鯛サイクルの原因は、製販分離構造により、生産者が生産余力に応じて種苗導入数を決定していることです。
この構造を破壊するための対策は、生産余力に依存するのではなく、需要の増加が見込めるときに種苗導入数を増やすようにすることです
需要の増加が見込めるのであれば、生産余力がなければ投資をするか、他の生産者に作ってもらえばいいんです。

では2年(育成期間)以上先の需要の増加をどう予測するのか?
というかそもそも、真鯛の需要って勝手に増えると思います?
私はこのままでは、真鯛の需要が大きく増えることはないと断言します。
なぜなら、真鯛は現状、ほぼ日本(と韓国)でしか売れない魚で、このマーケットは長期的に縮小傾向にあるからです。
(円安が360円位まで進行するとティラピアより安くなるので海外で勝手に売れる可能性がありますが、そもそも今の飼料代で真鯛の生産が出来なくなるので除外)

じゃあ生産量なんて増やせないじゃん!!
そんなことはありません。

今まで真鯛が売れていなかった地域の人々に真鯛を食べてもらう。つまり、「新規開拓」をすればいいのです。

需要の増加が見込めるとき≒新規開拓が出来たとき、かつその時に限ります。

これを聞いた輸出業者の方の中には、真鯛の海外での反応を知らない素人乙
と思う方も多いかもしれません。
真鯛の新規開拓には、今までたくさんの日本企業が挑戦し苦渋を味わってきました。
輸出業者さんに、真鯛を持っていくと苦い顔をされます笑
一般的な財においても、新規開拓は既存顧客の維持の約5倍大変です。(1:5の法則)

ただ、その輸出素人が育て2022年から販売を開始した白寿真鯛0は、今やアメリカで1番目か2番目に売れているブランド真鯛です。
まだまだ早いと言われていたインドにも輸出しています。

日本経済新聞さんに取組が紹介されました「赤坂水産、養殖マダイでインド市場に挑む」 | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)


これは、自慢などではなく、むしろまだまだ実力不足だと思っています。
ただ、真鯛でも海外の新規開拓ができる余地はあると言いたいだけです。


これだけ輸出が難しいといわれている真鯛で、なぜ新規開拓ができているのか?

新規開拓が可能な魚とはどんなものか?
それを説明するためには、新規開拓先である海外において、真鯛はなぜ売れないのか? について考える必要があります。


真鯛が日本(と韓国)以外で売れない理由 その①

世界で真鯛と競合している白身魚には以下のようなものがございます。

■ティラピア(イズミダイ、 tilapia)



■ギリシャのseabream(Orata, Dorada)
Greek Oven Baked Sea Bream Recipe (Tsipoura) - Real Greek Recipes

■豪州真鯛(snaper, zewzealand sea bream)
ゴウシュウマダイ




リンク先をみていただければ分かる通り、魚好きの人が見れば真鯛とは全く異なる魚です。
しかしこれらの白身魚は、海外の人々には「味」と「皮を剥いだ身の見た目」が真鯛に似ていると思われています。
そして、基本的に真鯛よりかなり安いです。
真鯛の味に似てて安い?これだけ聞くと日本人にもウケそうです。
しかし、↑のティラピアは、かって日本でもイズミダイという名で販売されましたが、あまり売れず日本市場から姿を消しました。
世界的にはポピュラーで圧倒的なシェアを誇る魚を、日本最強のマーケターが売ったのになぜ売れなかった!?

fresh fish fillet on wooden board, top view

理由は、ひとえに真鯛のうまさだ!うまいから売れる、当たり前だ!
と言うことができれば大変嬉しいのですが、それだと、海外では真鯛が売れない理由が分からなくなります。
この理由の本質は、私が考えるのに、昔から生食や真鯛の味に慣れ親しんでいる日本人は、海外の方々に比べ、白身魚の味の差、特に生食の味の差に敏感だからと思います
これは、逆に言うと、海外には日本人ほど白身魚の味の機微が気になる人々は多くないかもしれないということです。
さらに、私は、数々のデータや海外のマーケット事情から、日本人は相対的にみるとかなりグルメで、味というものを非常に大切にする民族だと考えています。
(事実、日本人が相対的にグルメであることを客観的に(?)表したデータがございますが、人によっては不適切に感じる方もいるかもしれないものなので、補遺Ⅱに回しました。)
日本人がグルメであることは、こだわりの魚を作りたい我々生産者からすると大変ありがたいことで、グルメな日本人が築いた魚食文化などは世界に誇れるものと思っておりますが、それだけが唯一正しい価値観だとは思っておりません。
なぜなら、味にこだわるあまり、日本人が軽視している価値観があると思っているからです。


真鯛の品質を決めるのは間違いなく生産者です。
生産者が育成すべき真鯛は、それを食べてくれる人々の価値観に寄り添った真鯛であるべきだと考えています。
日本人の水産物の絶対的な評価項目は、美味しいか≒新鮮か、安いかだと思っています。
自分たちが美味しいと思う魚を効率的に育てることが出来れば、それを追求していけば、世界で売れると思っていませんか?
残念ながら、現状ではそのような真鯛は、日本(か、海外にいる日本料理人)にしか売れません。
生産者が海外輸出を志したときにまずすべきことは、日本人として自分の趣向、知覚を客観視すること。
つまり、日本人として”メタ認知”し、販売国の方々との価値観のギャップを知ることが必要だと感じています。

ChatGDP 4o先生が言うには、日本人と海外の方でこれだけ意識の違いがあるようです。
詳細は補遺Ⅲに回しました。
薄いオレンジが日本市場、濃い方が世界市場です。


私も含め、日本人は海外の方に比べサスティナビリティに対する意識が恐ろしいほど低く、新鮮さや食感や味、見た目に異様にこだわる種族であるということをご認識ください

とはいえ、日本においてもサスティナブルシーフードの市場は拡大しています。
私も3月に開催されたFOODEXおいてその高まりを実感していたので、とてもタイムリーな記事でした。

真鯛が日本(と韓国)以外で売れない理由 その②

みなさんは鯛のどんなところが好きですか?
新鮮な真鯛のもちもち、コリコリとした食感が大好きという方が多いのではないでしょうか?
しかし、私は真鯛が売れない理由その2は、ズバリ、「新鮮な真鯛だけが美味しいという風潮、マーケティング」にあると考えています!
新鮮な真鯛はコリコリして美味しい!次の日の鯛なんて食べたくない!
魚にお金をかけてくれる人ほど、そう考えている方が多いかもしれません。
特に産地の漁師さんや生産者さんは、そのように考えている人が多いのではないでしょうか?
考えていた - ninscarm
では、その魚をアメリカに輸出したとします。
空輸を使ったとしても通関手続きなどを考えると、その真鯛がレストランでお客様に提供されるまでに〆て5日程の時間を要します
もちろん、空輸とアメリカの物価で現地での価格は跳ね上がります。
つまり、今の新鮮至上主義の価値観でいうと時間が経って不味くなってるけど、この魚めっちゃ高く買ってよ!と言っているようなもので、そんなもん売れるわけないじゃん・・・と思っています。
アメリカは比較的コールドチェーンが整っており、チルドで輸出できますが、〆て5日どころか、冷凍での出荷を考えなければならないところも世界には沢山ございます。

現状でも韓国ではなぜ鯛が売れているのか?
韓国には日本から活きたまま活魚船で輸出されているからです。
さらに、韓国の主要な飲食店は活魚水槽を構え、泳いでいる魚を客が指名して捌く方式が主流なので、活きていることが価値に繋がりやすいからです。
むしろ、今の活魚至上主義で売れるとこなんて、活きたままの魚を届けられる超近い韓国しかない。ということです。
(それでも、売れるまで魚は1週間以上絶食状態なので、アニマルウェルフェアの観点からいうとNGだけど・・・)


では、我々はどうすべきか?
生産者が輸出を志すならば、5日目が一番おいしい真鯛を育てるべきです。
冷凍が美味しい真鯛を育てるべきなんです。

そんなもんに価値があるか!新鮮なものが一番よ!!と思う方が多いと思いますが、
実際概ね3日以上時間が経過しているものか、冷凍でしか流通していないのに、恐ろしいほど愛されている魚種が存在します。
それがみんな大好き、サーモンという魚です。
アトランティックサーモン[10724003049]の写真素材・イラスト素材|アマナイメージズ
サーモンは日本の回転すしで人気No.1の魚種で、世界中で愛されている魚です。

それにも関わらず、サーモンが活魚で出荷されることはまずありません。
そのため、漁業関係者以外で〆た当日のサーモンを食べたことのある人はかなり稀だと思います。
皆さんがモリモリ食べているサーモンは、少なくとも〆て3日以上経過しているチルドのサーモンか、冷凍のサーモンです。
3日以上経過してあれなら、〆たての新鮮サーモンはさぞ美味いだろうと思うかもしれませんが、硬くて味がなくて不味いです。
寝かせることで、初めてあの旨みとしっとりした食感が味わえるようになるのです

最も人気の魚が3日以上経過したものを食べていることからわかる通り、魚は新鮮≒美味しいわけではないのです!
確かに新鮮な真鯛のコリコリ食感は私も好きで、お造りはそれを楽しみたいです。
しかし、お寿司や鯛めしなどご飯と一緒に口に入れるものや、炙りなどの火を入れるものは、寝かした真鯛の方が絶対美味しいです!
新鮮なものだけが美味しい!時間が経ったものはダメ!としてしまったら、勿体ないです。
新鮮至上主義が、鯛という素晴らしい魚のポテンシャルを殺しています。
きちんとした鯛を選び、きちんと〆て保管することで、鯛も時間が経つほど美味しい魚にできます。

 

海外で真鯛が売れない理由

①他国の人々の価値観に寄り添った育成が出来ていない

②新鮮なものだけが美味しいという価値観により、遠路の輸出先で価値を示すことができない

白寿真鯛0がなぜ海外で売れたのか

ここまでくると白寿真鯛0が(まだまだですが)真鯛の割に海外で売れる理由の説明はとても簡単です。
こちら、2021年に発表した白寿真鯛0のプロモーションビデオになります。
知らない方だけご覧ください。

ご覧の通りナレーションは全て英語で作成し、日本語バージョンは作っていません。
理由は、当時から白寿真鯛0の「究極のサステナブル」というコンセプトは、海外の方々により関心を抱いてもらえるのではないかと考えていたからです
逆に日本市場では味で勝負すべきだと考えていたので、日本語バージョンは必要ないと判断しました。
無魚粉飼料で有魚粉飼料以上の成長効率を出すことはできません。さらに、日本市場はまだまだサステナブルフードへの関心は高くなかったように感じられました。正直SDGsもやらされてる感満載でした
しかし、海外の人々の価値観に触れ、サスティナビリティへの関心の高さを感じられたことを原動力に、無魚粉での育成と販売を推し進めました
結果的には、PVを見ていただいただけで契約が決まることがあったほど、海外市場には威力を発揮してくれました。
白寿真鯛0が海外で評価されている理由は、効率以上に海外の方々が重んじる価値観、サスティナビリティを重視し、最初から海外市場を見据えて育成、PRしたためだと思っています。


もう1つの理由ですが、実は白寿真鯛0は現状一切活魚で販売していません
何故なら、私は5日目以降が最も美味しい魚になるように、白寿真鯛0を仕上げているからです。
私がアメリカのお客様なら、日本より高く提供されるものなら、最高な状態で出てきて欲しいからです。
そんなことが出来るのか?
そのための津本式であり、そのための品質規格プロジェクトです。
また、展示会などでは多くの方が真鯛を皮を引いた刺身の状態で出来るだけ新鮮なものを提供されていますが、
我々は丁寧に血抜きし熟成させた真鯛の旨味が引き立つ皮付炙りをおすすめし、実際に5日熟成したものや冷凍したものを試食として提供しています



インドでの展示会で提供した熟成冷凍炙り

海外で白寿真鯛0がそれなりに評価されている理由


売れない仮説①他国の人々の価値観に寄り添った育成が出来ていない
⇒多少効率が下がっても、(日本で評価されなくても)海外の方々が重んじるサステナビリティを重視し、最初から海外市場を見据えてPRした

売れない仮説②新鮮なものだけが美味しいという価値観により、遠路の輸出先で価値を示すことができない

⇒新鮮ではなく5日目が美味しくなることを目指して真鯛を育成、仕立てている
※何度も言いますが、成果を自慢しているのではなく、むしろ誰よりこの程度の成果じゃ駄目だと思っています。
なんせ御上の目標は、2030年までに真鯛の輸出額600億円ですから!(大体今の真鯛の市場規模)
(ちょっと無茶ぶりな気もするけど)それに応えるのが、皆様から日本の海を預かっている生産者の使命だと思っています。
ここでお伝えしたかったのは、真鯛という魚のポテンシャルです。
今まで新鮮なものにしか価値がないとされていた真鯛の価値を、熟成しても美味しい魚であることを証明して、商圏を拡大する。
今まで美味しさ以外の評価軸のなかった水産物の価値を、特に海外で関心の高い、サスティナビリティという観点を重視して育成することで引き上げる。
これらは、丈夫で雑食で、日本の海でこれからも海面養殖を持続していける可能性の高い唯一の魚種、真鯛だからこそ出来ることだと考えています。




中編は以上になります。
おい、結局無魚粉飼料を通じて実現したいことってなんなんだよ!って思われている方へ、

すいません、完結編は出来るだけ早く仕上げます!!

■2024年5月10日
NHKに弊社が今年度取り組む生け簀の大型化チャレンジを特集いただきました
丁寧な取材と誰にでも伝わる記事にしていただきありがとうございます。




■2024年5月22日
また、ありがたいことに、日本テレビ系列南海放送に、話題の品質規格や真鯛にかける想いを特集していただきました。
以下のYahooニュースでまるっとご覧いただけます。
丁寧な構成で、私が話すより何倍もわかりやすいので、是非ご覧ください。


 



補遺Ⅰ 生産者はなぜ増産⇒供給過多による値崩れ⇒減産を繰り返すのか

真鯛は広い地域で高い生存率で養殖されている魚で、変化の激しい日本の海においても増産可能な、数少ない魚種です。
一方で、真鯛の市場が日本と韓国以外でほとんど売れない飽和状態であるため、増産した場合、丈夫な魚ゆえに供給過多による値崩れを起こし、資金不足と生け簀繰りの問題で種苗導入量が減り、2~3年後の生産量が減るという流れを、30年以上繰り返していることをお伝えしました。以降、この問題を真鯛サイクルと呼びます。

【前編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~もう終わりだよこの魚編~ | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)

真鯛サイクルが指し示すことは2つあります。
①真鯛の市場の量と価格のキャパシティ(近年は大体1200円くらいまで、量は70000t程?)
②売れるのであれば真鯛は生産量を拡大することが可能なこと

では、なぜ生産者は真鯛サイクルに陥ってしまうのでしょうか?

養殖期間が長いから?

確かに鯛の育成期間は2年から3年と長く、コロナ禍やリーマンショックといった、マーケットの突発的な挙動や、特定の得意先の販売不振を2年前の稚魚導入時に予測することは容易ではありません。
しかし、真鯛サイクルの場合は、多くの生産者が、稚魚の導入時点で2年後に過剰供給となることが認識できています。
そのため、養殖期間の長さによる需要予測の難しさが、この問題に対するクリティカルな要因とは言えないように思えます。

真鯛サイクルの原因

真鯛は日本の広い海域で養殖が可能な魚です。
また、環境適応力が高く丈夫で魚粉への依存度も低いため、比較的養殖しやすい魚です。
他の魚種を養殖していた生産者が、環境の変化によりその魚種の育成が困難となり、真鯛にシフトすることも多いです。
そのため、今日でも多くの海面養殖生産者が真鯛を養殖しています。

真鯛サイクルの要因には、「経営体数が多く、その足並みが揃っていない」こともよく挙げられます。
(そのため、生産量の調整を目的とした国策等もございました。)
一部の生産者が真鯛サイクルの解決のため生産量を調整したとしても、別の生産者が導入尾数を増やせば相場は大きく下がります。
ただ、価格が下がることは消費者にとって悪いことではなく、逆に経営体数が少なくカルテルのようなものが形成されればマーケットにとって好ましい状態とはいえません。
そのため、私は足並みを揃えて生産量を抑えることが正しいとは思えません。

問題は、損益分岐点を割るほどの生産過剰な状況が一定のサイクルで発生している点です。
因みにこの場合、生産効率が上昇しているわけではないため、価格が下がる局面は限定的で、その後は元の価格以上の高値相場が形成され、消費者の長期的な利潤には繋がりません。


鯛サイクルが生じる要因は、経営体数が多く足並が揃っていないから。
これで必要十分条件といえるでしょうか?
もし、経営体数が大幅に減り、それなりに足並みが揃っていたとしても、現状では私は真鯛サイクルは生じる気がしています。

そもそも、(一次産品以外で、在庫の難しい)商品の製造量を増やす時はどんな時でしょうか?

①自社商品に対する確実な需要の増加が見込めるとき
②営業能力、販売促進を強化したとき
③商品のアップデートにより、商品に新しい価値を追加できたとき
④競合他社が減少したとき

つまり、当たり前ですが、いずれも販売量の拡大の見込みがあるときに、はじめて製造量を増やす意思決定がなされます。
自社の販売可能数量以上に製造しても、在庫が嵩むだけで、収益は悪化します。

しかし、生産者が生産量を拡大するタイミングは、販路を拡大する見込みがあるときではなく、生産に余力があるときになってしまっています。
極端な話、全ての生産者が自社の販売可能数量に応じて養殖をするのであれば、経営体数がいくら多くても生産過剰は引き起こらないはずです。
私はこのマーケットと生産の意識の乖離が、多くの生産者で生じている点が、真鯛サイクルを引き起こす最大の原因だと考えています。

逆になぜ、そのような破滅的な意思決定で養殖経営が可能なのか。
その要因は、製販分離の商流構造にあると考えています。

製販分離の商流構造

詳しく説明していきます。
実は赤坂水産のように、消費市場に直接魚を販売をしている生産者は珍しく、一般的な養殖業のサプライチェーンにおいては、多くの生産者が『浜仲買商や漁協』を介して、稚魚や飼料を購入したり、魚を販売したりしております。


また、浜仲買商へ出荷された養殖魚が飲食店や生鮮食品に直接販売されることは少なく、その多くが卸売業者へ販売されます。
生産者は、浜仲買商に稚魚や飼料を購入する見返りに魚を販売してもらうという図式が出来上がっています。
このモデルにより、養殖業者は、長い養殖期間が必要な魚でも、売り先の心配をせずに魚を育てることが出来るようになりました。
また、スケールメリットにより安定的でコンペティティブな活魚、鮮魚の物流が構築されました。
このモデルは、間違いなく今日までの養殖業の発展に大きく寄与してきました。
これからも日本の鮮魚流通の多くを担っていくものと考えております。
また、営業機能を持たない多くの生産者を今日まで支えてくれた構造ともいえます。
しかし、その心強さゆえ、同時に以下のような課題をはらんでいます。

①魚の品質が同質化する
生産者が変わるごとに提供する真鯛の品質が変われば、クレームに繋がりかねません。
そのため、尖った特徴を持つ真鯛よりも丸い真鯛のほうが好ましくなり、結果、生産者が違っても同じ品質の真鯛が作られ、コモディティ化が加速することになります。

②生産者と販売者の収益構造が異なる
浜仲買商さんのお仕事は、生産者から成魚を買い取って販売する事業と、稚魚、飼料を生産者へ販売する事業の2つに分かれますが、どちらか安定していて利益率が高いかというと、間違いなく稚魚、飼料販売です。
浜仲買商は、株主のことを想い短期的に収益を上げることを考えるのであれば、魚を買い取って販売することよりも稚魚と飼料の販売を推進すべきです。
しかし、そうした場合、マーケットが求める以上の真鯛が生産されることは言うまでもありません。

③魚の味や品質ではなく、いかに太らせるかや見た目、卸売業者との関係強化に目的がおかれがち
飼料を買えば魚を出荷してもらえるのであれば、極端な話、生産者は魚を売る方、魚を食べる方のことを考える必要がなくなります。
どれだけ美味しいと思う魚を作っても、価格が同じであれば、生産者の関心は、いかに飼料代を下げるか、いかに魚を太らせ、重量を乗せるかに向かいます。
これまた、生産者や生産者想いのスタッフが収益を上げるためには、そうすべきです。
その結果、美味しくなく売りづらい魚が市場が溢れかえり、魚のマーケットが縮小します。
また、最終消費者までの間に卸売業者が多ければ多いほど、魚の見た目や関係者間の関係強化に重きを置かれがちな印象があります。
これは兼ねてからお話している私の持論なのですが、魚の見た目、外観をものすごく気にされる方がいますが、現在の日本市場で、どれだけの最終消費者が丸の状態の養殖魚を目にするのでしょうか?
料理の見た目は絶対に大事です。ただ、料理の見た目にこだわるなら、魚のおろし身の美しさや透明感にこそ気を使うべきです。
極端な話、酒店やレストランでワインを選ぶときに、原料のぶどうの美しさで選びますか?そもそも原料のぶどうの写真が載っている方が稀ですが・・・

(余談:因みに韓国出荷は見た目、外観がとても大事です。韓国の飲食店は活魚水槽を構え、泳いでいる魚を客が指名して捌く方式が主流で、魚の見た目が最終消費者に提供する価値に繋がりやすいからです。)
また、接待で構築した関係者間の関係性の強化も、消費者に提供する価値には繋がりづらいと考えています。
マーケットとのコミュニケーション手段としては、何層にも連なる伝言ゲームはなかなか難解です。


そして、これらの課題は、全てが真鯛サイクル、ひいては過剰供給やマーケットの縮小に繋がるものと考えています


真鯛サイクルの影響

真鯛サイクルは、現状の真鯛市場が飽和状態であることを示すために紹介しました。
しかし、↑で軽く触れましたが、私は、真鯛サイクルそのものが、真鯛市場を縮めていると考えています。

魚余りは素晴らしい!?

仲介業者の方にも消費者の方にも、魚余りによる価格破壊を喜ぶ方は多いと思います。
しかし、魚余りは生産者の生産効率の高度化を阻害するため、長期的には魚の値上げ要因となります。
私は、生産者を皆様にとって価値があるものにしたいので、真鯛を出来るだけ求めやすい価格で皆様に提供したいと考えています。
価格を下げるためには、原価を抑える必要がございます。
しかし、養殖原価の6割以上を占める飼料代が大幅に上昇している近年、今まで通りの生産体制では価格を上げざるを得ません。
このような状況下で真鯛の価格を下げるには、①稚魚の導入量を増やし大規模化するか、②大規模生簀や大型船などの生産効率のあがる設備に投資すべきです。
しかし、数年に1度かならず魚余り状態、つまり原価割れしてしまう相場が、積極的な投資から生産者を遠ざけます。
その結果、真鯛生産は30年間大幅な効率化がなされず、長期的には価格が上がってしまう状況が形成されています。
そして高値で推移するため、ますますマーケットが縮小してしまうスパイラルに陥っているように感じます。

現状の対策

過剰供給による値崩れ問題に対して、現状では、一部の生産者の間で以下のような対策が取られています。

①出荷のタイミングをずらす

より早く成長させ出荷を早め、相場が下落する前に売りぬく。または、餌を抑え成長を緩やかにし、出荷を遅らせる等の工夫。


②逆のポジションをとる

全体が増産傾向にあるときはあえて真鯛の導入尾数を減らしたり、全体が減産傾向にある際に、あえて増産する方法。
しかし、相場の影響は受けてしまうため、減算時の売上はとても小さくなり、キャッシュフローがとてもいびつになる。
そのため、応用として、真鯛を減産させる際に異なる魚種を導入、または増産させることで、収益の減少を留めるという方法もある。

③ブランディングによる差別化
育成している真鯛をブランディングさせることで差別化し、販売単価を向上させる。
ただし、真鯛の場合100種以上のブランド真鯛が存在し、その多くが差別化できておらず形骸化している。
なぜならその多くがマーケットインなものではなくプロダクトアウトだから。
当然だが、飽和状態にある国内市場では、ブランド真鯛が売れたとしても別の真鯛に取って変わるだけの確率が高い。
(「確率が高い」という遠まわしな表現をした理由は、白寿真鯛0では、国内のチェーン店において商品ラインナップを輸入魚から白寿真鯛0に置き変えてもらった例があるため。)

しかし、これらの方法をもってしても、他の生産者がいる限り過剰供給による相場の変動は発生します。
何より、実践した生産者の収益は上がるかもしれませんが、国内の養殖魚の生産量が増加する方法とは言えません


真鯛サイクルまとめ

真鯛サイクルとは?
真鯛養殖が陥っている5~6年周期の以下のサイクル
真鯛の稚魚導入数を増加させる⇒2年後の出荷タイミングに丈夫な魚ゆえ供給過多になり相場が下がる⇒売れないので漁場が空かず、お金がないので稚魚導入数が減る⇒供給不足により2年後の真鯛の相場が上がる⇒漁場が空いておりお金に余裕があるので、真鯛の稚魚導入数を増加させる(以後繰り返し)

真鯛サイクルの原因
製販分離構造に支えられ、生産者が販売量の増加が見込めるタイミングではなく生産余力があるタイミングで種苗導入数(≒将来の生産量)を拡大し、逆に需要が見込める局面で生産の余力がないため種苗導入数を減らしてしまうため(生産とマーケットの分離)

真鯛サイクルの影響
数年に一度、原価割れしてしまうため、大規模化・生産効率の向上が起こらず、原材料と共に長期的な販売価格が上昇、マーケットの縮小を加速する死のスパイラルへ・・・


真鯛サイクルに対し現状取られている対策
①出荷のタイミングをずらす
②逆のポジションを取る
③ブランディングによる高付加価値化
全て個社の利益に結びついても、真鯛サイクルの解消につながるものではない・・・

補遺Ⅱ 日本人はグルメである

株式会社TENGA日本を含む世界9か国と地域の方々に行った大規模調査(2020年)の1つで、「最も快いと感じることはどれ?」という問いに対する各国の回答が以下となります。

こちらの調査結果は日本人の価値観をメタ認知するよい材料だと真剣に思っており、批判を覚悟で掲載しました。
だって各国n>720ってすごくない!?
他国の人々が人と接する項目を首位に挙げる中、日本人だけが「美味しいものを食べる」ということを首位に挙げています。喉の渇きを癒すも相対的に見てかなり高いです。
因みに「美味しいものを食べる」の他国の加重平均は5.6位です。
アジア圏が相対的に順位が高いところも、なんか分かります。(美味しさというより食に対する倫理的な意味で)
日本の水産物を他国の人々に愛してもらうには、相手が求めるものを知ることと同様に、自分自身、日本人自身を客観視し、どれほど価値感に乖離があることを知ることが重要だと考えています。


補遺Ⅲ The difference between what Japanese people want in fish food and what people overseas want.

■Question
Please provide objective data to show the difference between what Japanese people want in fish food and what people overseas want.

Answer
To provide an objective comparison between what Japanese people and people overseas want in fish food, I gathered data from several sources, including the Japan Food Product Overseas Promotion Center (JFOODO), USDA reports, and academic studies on consumer preferences.

Japanese Preferences:

  1. Freshness and Taste: Japanese consumers highly prioritize the freshness and taste of fish, reflecting the cultural importance of fresh seafood in Japanese cuisine​ (Jetro Go)​​ (USDA Foreign Agricultural Service)​.
  2. Safety: Safety is a significant concern, with many Japanese consumers preferring domestically produced seafood due to perceived higher safety standards and quality control measures​ (Emerald Insight)​.
  3. Texture: The texture of fish is also crucial, as Japanese cuisine often highlights the delicate texture of raw or lightly cooked fish​ (USDA Foreign Agricultural Service)​.

Overseas Preferences:

  1. Sustainability: Consumers in many overseas markets place a high value on sustainability, seeking fish products that are certified as environmentally friendly and sustainably sourced​ (USDA Foreign Agricultural Service)​.
  2. Price: Price sensitivity is more pronounced in overseas markets, where consumers often look for affordable seafood options without compromising on quality​ (Jetro Go)​.
  3. Taste: While taste is important globally, the specific preferences for flavor profiles can vary, with a tendency towards richer or more pronounced flavors in some Western markets​ (USDA Foreign Agricultural Service)​.

Comparison Table:

Preference Japanese People (%) Overseas People (%)
Freshness 90 70
Texture 80 60
Taste 85 65
Sustainability 40 85
Price 50 80
Appearance 75 55
Safety 95 90

This data indicates that while both groups value taste and safety, Japanese consumers place a higher emphasis on freshness and texture, whereas overseas consumers are more concerned with sustainability and price.

For more detailed information, you can refer to the Japan Food Product Overseas Promotion Center (JFOODO) and the USDA reports on seafood markets​ (Jetro Go)​​ (USDA Foreign Agricultural Service)​.

 

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