【完結編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~生産者の価値~
前回まで
【前編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~もう終わりだよこの魚編~ | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)
【中編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~白寿真鯛0が海外で評価される理由~ | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)
今回の完結編では、ようやく無魚粉飼料を通じて、実現したいことをお伝えしたいと思います!
その前に、ある国の養殖業と、それがその国の人々に与えている影響をお伝えする必要がございます。
※尚、データの補完には大抵CHATGPT4o君を使用しており、数字については調べられる範囲で変更しているのですが、誤っている情報もあるかもしれません。
予めご承知おきいただけましたら幸いです。
あと今回は特定の企業も出てきますが、いずれの企業もめっちゃ尊敬していることが伝われば嬉しいです。
最強VS最強
皆さんは、水産大国日本において、水産業界最強(最大)の企業をどこかご存じでしょうか?
ChatGPT 4o君の回答はこんな感じです。
そう、皆さんご存じ、マルハニチロさんです!
ChatGPT 4oのいう通り、その事業領域は多岐にわたり、天然養殖の様々な魚種、国内海外の鮮魚から冷凍、すり身に缶詰、ファインケミカルや物流まで一社で実施されており、我々日本人の生活の広範に支えてくださっています。
次に、「水産業が発展している国はどこか?」を聞くと、このような回答が返ってきます。
前半部では、その水産業の長い歴史と、水産物が文化と経済にもたらす影響の影響から、我らが日本を上げています。
そして、後半部に記されている近年水産業で目覚ましい発展を遂げている国、それがノルウェーです。
そのノルウェーの水産企業の中で最も大きな企業が、こちらのMOWI(モウイ)となります。
私が注目してもらいたい点が、「①売上が約1兆円と、マルハニチロと同等の規模を持つこと(この年の純利益は約3.6倍MOWIが大きい)、②事業セグメントがただ、サーモンを育てて加工して販売すること、製品がサーモンだけのこと」です。
つまり、我々のような養殖企業が、全ての水産業セグメントを担うといっても過言ではないマルハニチロと同等の規模を持っているといえます。
そして、このノルウェーのサーモン養殖こそが、世界最強の養殖産業といえるでしょう。
我が国最大の養殖生産量を誇る県は、ご存じ、愛媛県ですが、その愛媛県最大の養殖企業をもってしても、売上は30億円いくかいかないかだと思います。(推計)
その生産量が、大体毎年真鯛200万尾前後というイメージです。
因みに赤坂水産の真鯛の生産量で30万尾くらい。
JABUROの生産量で120万尾くらいです。
愛媛県の中堅養殖企業の売上は多く見積もって3億程度なので、売上規模にして、超大手の約300倍、中堅の約3000倍程大きいことになります。
生産能力の差
日本の養殖技術の代表例として、先進的な取組を実施していることで注目される企業、赤坂水産の生産技術について見てみましょう!
(弊社の生簀規模はもう少し大きいのですが、一般的に10m×10mの生簀が使用されます)
これに対し、ノルウェーの生産設備はこんな感じです。
これは私の持論なのですが、同じ魚種の場合、生簀の大きさが生産効率をはかるバロメーターとして考えています。
出荷、給餌、網替えなどの、全ての生産業務が生簀単位で発生するからです。
(例えば生簀の大きさが3分の1なら、生簀が3倍必要になり、同じ尾数の魚の給餌と網替えに3倍の手間と時間がかかります)
じゃあなぜみんな生簀を大きくしないのかというと、それを操るための巨大な船等の設備が必要となり、数億規模の投資が必要となるからです。
(ノルウェーレベルだと数十億規模)
日本にも20m20m20m程度の規模の養殖生簀を使う方もいると聞きますが、それでもノルウェーとは10倍以上の開きが生じます。
給餌船など様々な機器もございますが、やはり一尾あたりに生じる仕事量はパージ船を用いるノルウェー養殖には到底かないません。
現実として、ノルウェーと日本の養殖技術には大きな差があるといえます。
生産者の中には、フィヨルドを有する環境や、サーモンという魚種の優秀さによるものが全てという方もいらっしゃいますが、環境と魚種による差だけというのなら、最初から日本の海面養殖より優れたものであるはずです。
下図の通り、ノルウェーの発展は、日本の漁業者が停滞していたこの40年で、大幅な成長を遂げたものです。
私は、この販売量と生産効率のめざましい発展は、ノルウェーの政府や生産者の努力によるものと考えています。
ノルウェーと日本の海面養殖業の生産量の変化
(データ出典:Statistics Norway, 漁業・養殖業生産統計)
今やはるか雲の上の存在のノルウェーも、40年前は日本から養殖の技術を学んできました。
私が10年ほど前に耳にした、ノルウェーの研究者が30年ぶりに日本の養殖現場を訪れ放った際の言葉があります。
「日本を師と仰ぎ、追いつき追い越せで技術を磨きここまで来たのに、先生は当時のままで年老いている」
この研究者とは、養殖資材を扱う企業で世界最大の企業、AKVAのCEOです。
(かっこよすぎて逸話と思っていましたが、実話のようです)
なぜノルウェーのサーモン養殖について知ってもらいたかったのか
日本では一次産業といえば、政府の助成の下で成り立っているイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか?
ご多分に漏れず、日本の水産業にもそのような側面があります。
なぜノルウェーのサーモン養殖について知ってもらいたかったのか。
それは、サーモン養殖が、ノルウェーでは石油に次ぐ基幹産業となっているからです。
基幹産業とは、一国経済の死命を制するような重要な基礎産業のことを言います。
サーモン養殖業は、2023年に約1225億NOKの輸出収益を記録し、これは石油・ガス産業に次ぐ2番目に大きな輸出産業です。サーモンはノルウェー全体の水産物輸出額の50%以上を占めており、ノルウェーのGDPにも大きく貢献しています。
また、助成どころか、サーモン養殖業からの税収は年間約325.5億NOKであり、ノルウェーの国家財政に大きく貢献しています。
特に2023年からは新しい養殖税の導入により、税収が増加しています。
さらに、従業員の収入も高く、ノルウェーの若者にとって、養殖業は医師のような憧れの職業となっているとのことです。
※chatGDP4o調べ
さらに、ノルウェーでは2024年135万tのサーモンの生産量を、2050年までに500万tまで増やすことを計画しています。
ノルウェー 135万t(2024)⇒500万t(2050)
真鯛 6万t(2018)⇒11万t(2030)
真鯛の成長目標として、政府が掲げる生産量11万tや輸出額600億円については、達成に向けて政府から様々な助成がございますが、多くの水産業者から不可能な数字と考えられています。
一方で、ノルウェーでは、驚くべきことに、この挑戦的な目標に対してさえ、政府補助金を一切使わず民間投資だけで実施される予定です。
さらに、その生産効率を高める次世代養殖技術の開発には、100億以上の金額を投資する企業もあるそうです。
なぜそんなことが出来るのか?
誤解を恐れずに言うと、提案が認められると、本来ならば取得に15億~30億が必要となる商業ライセンス(漁業権)が巡り巡って得られるからです。
https://www.fra.go.jp/home/cooperation/platform/salmon_session/files/salmon_3th_session_3.pdf
つまり、「ノルウェーでサーモンを780トンまで育成する権利」である漁業権に、なんと15億~30億の価値があるのです。
この価格はオークションによって決まり、政府に支払われるそうです。
ノルウェーの海にこの価値があるから、政府は元手0で養殖技術コンペを開催することができるのです。
「皆さん!日本の海で新たに780トン養殖できる権利をあげるから100億規模の技術開発してね!!」といって実行する企業はあるでしょうか?
私は100%ないと思います。
なぜか?
日本で養殖をしても、それだけの収益が見込めないと思っているからです。
なぜ見込めないと思っているのか?
私たち生産者が、日本の海での養殖にそれだけの価値を示せていないからです。
おまけ
最新技術紹介:サルマー社のドーナツ型海上閉鎖式養殖「2029年からのカナダもいけるで」
生産者の価値
私が生産者の価値を考え始めたきっかけは、漁業法等の一部を改正する等の法律(以下、改正魚漁法)が衆議院で可決された2018年頃(2020年に施行)からです。
改正魚漁法では、漁業権を認可する機関が、各漁協、つまり地方の漁業者から構成された組織から都道府県に移行することが目玉として挙げられていました。
これにより、大企業の参入が活発化することが予想されていました。
もちろん大企業が養殖を実施したほうが、効率的な養殖が出来る可能性が高いです。
それから、「これから先、私たち生産者のような小規模な経営体は必要な存在なのか」と自問するようになりました。
かねてより、多くの第一次産業の生産者は、食料安全保障の確保、および地域経済の活性化に資する存在として、助成金などを与えられながら大切に扱われてきました。
皆様は、なぜ我々生産者を助けてくれるのでしょうか?
食の安定供給のため?国内市場はとっくの昔に飽和状態なのに?
値ごろな価格のため?生産技術を40年間進歩させていないのに?
そして、あなたの地域の経済は健全ですか?
そもそも、日本の海は誰のものでしょうか?
日本の海は国家の共有財産であり、我々生産者は、皆様からその海を預かって漁業をしている存在にすぎないのです。
このあたりや漁業権については、2024年5月に発売されたばかり以下の本がめちゃくちゃ面白いでのでおすすめします。
↓
土地のように日本の海が個々の生産者のものであれば、生産者の好きにすればいいと思います。
しかし、日本の海は皆様のものです。
そして、その日本の海の価値は、生産者が生産性を高められるかどうかで決まります。
そのため、我々生産者は、生産性を高めず、政府の、つまり、皆様の助成によって生き永らえる存在であってはならないと考えております。
では、生産者はどうあるべきか
無魚粉飼料を通じて実現したいこと
私が無魚粉飼料を通じて実現したいこと、生産者の使命だと考えていること
それは、「日本の海の価値を証明すること」です。
魚粉が上がって育てれば育てるほど赤字だ・・・
では、養殖をやめますか?
政府や国民の皆さんにすがりますか?
ただ、こうなることは、何年も前から分かっていたことではないですか?
私は魚粉が上がり、人手が少なくなり、日本の海の環境が変化する中で、日本の海の価値を示すためには、機械化、無魚粉飼料、もしくは超低魚粉飼料での育成の高度化、そして低魚粉と環境変化に適応力の高い真鯛へ集中するしかないと考えて、ずっと行動してきました。
日本の海の価値を高めるため方法は、①単位当たりの生産量を増やすか(つまり、生産技術を向上させる)、②生産するものの価値を高める(つまり、売れる魚にする)のどちらかが必要だと考えています。
そして、③持続可能な試みかどうかが最重要だと考えています。
サスティナビリティや持続可能性という言葉を毛嫌いする日本人の方は多いと思います。
私はただ、「日本の養殖を、100年先まで持続可能な産業にするにはどうしたらいいか?若者たちに希望を与えられる産業にするには何をすべきか」という観点で、持続可能性という言葉を、何よりも重要視しています。
そのため、私は無魚粉飼料での育成効率を高めるため、3社で手を組み機械化、大型化と、無魚粉飼料の改善に取り組んでいます。
JABUROについて | 白寿真鯛と横綱ヒラメの赤坂水産有限会社 (akasakasuisan.co.jp)
そして、何より、恐らく誰より無魚粉飼料で育った魚を価値あるものにするために努力してきました。
どこでなら、誰ならこの価値を分かってもらえるだろう・・・どうしたらこのにおいのない魚を美味しく食べてもらえるだろう・・・
今でも、これを考えない日はありません。
2024年の飼料の値上げ、無魚粉飼料の値上げはほぼありませんでした。
それもあって、ようやく今年、限界利益計算で、無魚粉飼料で育成した真鯛が通常魚粉で育てた真鯛に勝るようになりました。
環境の変化により様々な魚種が厳しい局面を迎えていると聞いています。
しかし、一時の助成により、地球温暖化が解決するのでしょうか?
日本の海の環境が変わるでしょうか?
我々は、この変化の激しい日本の海においても、持続的に収益の上がる方法があることを示していかなければいけません。
今まで以上に、地方の第一次産業の必要性を訴えることが難しい局面を迎えているといえるでしょう。
地方の海の有用性を示したいのなら、どこにでもできる閉鎖循環型陸上養殖(RAS)以上に、海面養殖が優れている点を示していかなければなりません。
では具体的に今後どのようなアクションを起こすすべきか。
ここまでの流れからは想像できないかもしれませんが、今回のブログの趣旨は、他の生産者へのラブレターです。(ツンデレか!)
3年以内に達成する具体的目標
私が日本の海の価値を高めるために、最優先で進めること。そのKPI(重要業績評価指標)をここで宣言します。
”3年以内に真鯛を年間1000万尾を生産する企業を創る”
・・・養殖の現実を知っている生産者こそ、またとんでもなくアホなこと言いはじめたなとお思いのことでしょう。なんせ、養殖大国の愛媛県で一番大きい養殖業者ですら、生産量200万尾/年ですから。
この数字は、以下の3点により、相当の大企業だとしても達成が困難だと思われます。というか投資収益率の観点でやる意味がないです。
①まとまった養殖適地が得られない(大規模沖合養殖ならワンチャンだが、多分②と工事期間で3年以内には不可能)
②真鯛の生産には池入れから2年~3年を有する
③市場が飽和状態(大体年間4000万尾くらい)の中で1000万尾を追加するため、淘汰が完了するまで相場がが大きく悪化する
また、買収等により海面養殖に参入する企業は、シナジーの観点で川下の企業が多いですが、自社単体で真鯛1000万尾をさばける企業はないと思います。
大企業による新規参入や川下の企業の買収でさえ、この目標を達成することは容易ではありません。
つまり、これらの企業をもってしても、この目標以上に真鯛養殖を効率化することは出来ないのです。
これを3年以内に出来るとしたら、やる意味があるとしたら、生産者以外にあり得ません。
生産者といっても、生産量30万尾の私単体では上記の①~③により、どう転んでも3年以内の達成は不可能です。
しかし、JABUROはやろうと動き始めて、2カ月くらいで出来上がったので、2カ月で生産量は30万⇒120万になりました。
そう、真鯛1000万尾を生産する企業を3年以内に創り、かつ、それにより真鯛市場に悪影響を与えない方法があるとしたら、既存の生産者集団がまとまる以外にございません。
そしてそれは、JABURO以上に有機的な事業連携、生産者同士の統合が必要だと考えています。
これを言うと、不可能だ。生産者の足並が揃うわけがないし、揃えたくもないと思う生産者も少なくないでしょう。
逆です!
単独で大規模な投資が出来ますか?
単独で新たな市場を切り拓くことができますか?
もはや生産者には手を組む以外に生産性を上げる術はないでしょう!
むしろ、現時点で無理だと思うなら、どうしたら生産者が手を取り合うことができるかを、今からでも必死に考えるべきだと思います。
統合し、大企業化していく中で、自分や親族の財産や権威は目減りするかもしれませんが、それ以外にどのようなデメリットがありますか?
なぜ3年か?
悠長なことを言っていると、先に地方経済が死ぬと思っているからです。
今の生産者で、自分の地区の将来が安泰だと考えている人はいますか?
そして、今の若者が、地方や水産業、日本に希望を持っているように見えますか?
環境が変わって、もう終わりだー助けて―とか言っている業界に、誰が就職したいと思いますか?
水産業の価値を示すため、地方の価値を示すため、我々は生産者として、日本の海の生産性を高めていく必要があります。
地方や水産業が豊かになり、若者たちが希望を持てる未来のために、どこよりも生産効率が高く、どこよりも持続可能な真鯛養殖を一緒に創りませんか?
そして、魚が大好きで、水産を学んだ若者たちが、飼料メーカーや水産企業で営業をするのではなく、輝きながら魚を育てられる企業を地方に創りたいです。
主体的で知的好奇心にあふれる若者が一緒に働いてくれることが、我々の希望になるからです。
そして、我々生産者が、地区を、県を超えてまとまった時、はじめて真の国際競争力を持つ最強の真鯛、天元突破 日本産真鯛が誕生すると考えています。
「サーモンじゃないしフィヨルドがないからやっぱり駄目だったわ笑」って養殖をあきらめるのは、そこまで生産性を高めた後でよくないですか?
自分で提唱していてなんですが、KPI1000万尾は、挑戦的かつ、いばらの道です。
誰でもいいわけではなく、皆様が、時代錯誤だけど、炎天下でも雪が降っていても毎日餌やりが出来て、時化での作業で士気をあげられる、タフでかっこいい人々だから言っています。
この声が、志の高い多くの生産者に届くことを願います。
おわり
あ、2024年8月21日から3日間東京ビッグサイトにて開催される、国内最大級の水産見本市「第26回シーフードショー」にJABUROとして参加いたします。
ご来場いただける方はお声かけいただけましたら幸いです!
愛媛県ブースの最も目立たないところでお待ちしております。