津本式の効果検証~新鮮編~
津本式で仕立てた魚は長期熟成しなければいけない・・・
そんな風に考えていた時期が私にもありました。
これは、津本式を始めて間もない方が、最も陥りやすい罠です。
私の見解では、魚の長期熟成には、熟練の技と恐ろしいほどの手間が必要です。
魚のポテンシャルの判別、氷水保管という手間とスペースの必要な保存方法、保存時の水温や状態の日々のチェック、捌いた後の脱水や手入れ、そして提供タイミングと調理方法。
その他にも、私も知り得ないきめ細かなテクニックがあって、長期熟成魚の美味しさははじめて成り立つものと思っています。
にぎりてさんやゆう心さん等の公認店さんで、美味しい長期熟成魚が提供されるまでには、これだけの工程が踏まれています。
それなのに、知識も道具も技術もない状態で津本式を試し、挙げ句一週間ほど置いてそのまま食べて、あれ?と思ってしまう方もいると思います。
私もそうでした。
ただ、私の場合は幸運なことに、美味しい津本式熟成魚を食べたことがあったので、「こんなはずはない!」と思い、試行錯誤を重ねました。(道具も買い揃えています)
そして、満足のいく状態まで、津本式の仕立ての練度を高める事が出来ました。
アサシン赤坂とお呼び下さい
一番勿体ないパターンは、美味しい津本式仕立ての魚を知らず、自分の下手な津本式で仕立てた魚を食べて、津本式自体を過小評価してしまうこと。
これは、「寿司っていう料理、美味しいって聞くから手順調べて一貫自分で握ってみたら、全然美味しくなかったわ。」ということと同じこと。そのような寿司を作っていてはハンター試験でメンチに怒られます。以上より、美味しい津本式熟成魚が出来るまでには、以下の2つが必要です。
①正しく津本式の仕立てを行うこと
②正しく熟成(保存、手入れ、調理)すること
①より②のハードルは高く、私も未だ②を極めるには全く至っておりません。
では、②を極めていない方が津本式をしたところで美味しい魚は食べられないのか(もしくは恐ろしい程の鍛錬と手間が必要なのか)!?
そんなことは断じてありません!
①の津本式の仕立てを一定のレベルまで高めることで、普通の魚より断然美味しく食べられます。
そう、新鮮な状態の魚を!
前置きが長くなりましたが、今回は、新鮮な真鯛に対する津本式の効果を検証しました!!
実は検証自体は加工場を作る前からやっていたのですが、活魚屋として公表すべきかどうかという内容だったので、このタイミングでの公開となりました。
津本式の効果検証~新鮮編~
津本式究極の血抜きを施した真鯛のフィレと、神経抜きの後、潮氷に浸して血抜きした真鯛を、〆た次の日に比較しました。
津本式究極の血抜きを施した真鯛のフィレ(左)と、神経抜きの後、潮氷に浸して血抜きした真鯛(右)
条件
✓同一の種苗、同一の主要環境、同一のサイズの真鯛を使用
✓津本式を施さなかった個体にも、神経抜きと潮氷による血抜きを実施
✓鮮魚店に務めた経験を持つ弊社社員が、同一のタイミングで仕立て、次の日の同じタイミングで捌いた
✓どちらも家庭用の冷蔵庫で1日保管
✓脱水等をしていない捌きたての状態で比較
比較方法
「味」:どちらが津本式を施した切り身かを明かさない状態で、様々な世代の9名の方に試食を依頼
「見た目」:毛細血管中の血の残留量を、ImageJという画像処理ソフトを用いて黒線を抽出することで比較
比較結果
・「味」について
食味試験の後、個別に確認を行ったところ、なんと9名中9名の方が津本式を施した切り身を支持しました!!
美味しい真鯛を追い求め、数多の食味試験を実施してきた私も、これ程圧倒的な差を示せた試験は今までにありません。
ある程度条件を揃えた食味試験をしたことがある方は、いかにこの結果がすさまじいかお分かりいただけると思います。
この結果は、その後津本式白寿真鯛をフラッグシップとして扱い、加工場や通販へ投資するに至る、強い動機づけとなっています。
各々の感想は以下のとおりです。私は〆て2日目の真鯛に苦味があることをこの時初めて知りました。それ程までに津本式には苦味がない!
✓右は後味に血の苦味を感じたが、左はそれがなく、旨味を強く感じた
✓食感としても左がより鮮度が保たれているように感じた
✓巷でいわれる水っぽさは感じられなかった
✓食べた瞬間に違いを感じた。これほど条件を揃えた食味試験で、ここまで大きな違いを感じたことはない
ある大学の先生に教えていただいたImageJという画像処理ソフトを用いて、毛細血管中の血液の残量(黒い線)を比較しました。
具体的には、①上記の画像の左右の切り身について同一面積を切り抜き、②画像中の黒色部を抽出、③ピクセル単位で黒部をカウントし、数字を比較しました。その結果、津本式を施していない切り身の画像は、約3.4倍黒色が多いことが分かりました。つまり、津本式を施した切り身は、少なくとも表面上の血の残留量が約1/3であることが分かりました!こうして数字にしてみるとすごい差ですね。
この試験で使用した津本式で仕立てた真鯛の半身。骨側にも血液の残留はほとんど見られない
まとめと所感
一般的な処理を施した(今回対照区の真鯛に施した処理は、かなり丁寧な部類)真鯛と比べ、津本式を施した真鯛は新鮮な状態でも圧倒的に美味しく感じることが分かりました!
これから津本式を始められる方は、まずは熟成の技術の必要のない、2~4日程度の比較的新鮮な状態で食していただけたらと存じます。
津本式仕立ての練度が上がっていくことでどんどん美味しく感じるようになります!
私は津本式仕立を押し出すまでに、このような比較検証や試食を繰り返して来ました。
津本式仕立てをオススメする理由は、このような客観的な裏付けがあるからです。
大切なお客様には、大切に育てた白寿真鯛を最高の状態で味わってもらいたい。
今後も慢心、盲信せず、新たな技術があれば比較検証を繰り返していくことで、白寿真鯛の品質を高めていきます!
津本式の効果
また、熟成に手間と職人の技術が必要ということは、小売店さんと飲食店さんの棲み分けにも繋がると思っています。
小売店さんでは新鮮な津本式仕立てをいつでも楽しめ、飲食店さんではちょっと高価なこだわりの熟成魚を楽しめる。
いち魚好きとして、より多くのお店で津本式の魚を食べられる日が来ることを願います。
スーパー魚次さんで販売されている〆て3日目の津本式白寿真鯛
sushibar にぎりてさんで絶賛された熟成12日目の白寿真鯛