漁村ライフ

【前編】無魚粉飼料を通じて実現したいこと~もう終わりだよこの魚編~

赤坂です。若者の間で再ブームになっている(いた?)MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)という性格診断をやってみました!
40歳以下の韓国の方々などは、初対面で自分のMBTIはENTPですというような自己紹介をするほど、流行っているそうです。


あなたはどのタイプ?


私はINFJ(提唱者)という性格のようです。


強い信念を持ち、理想主義者である提唱者は惰性で生きる人生には満足せず、自身が立ち上がり、ものごとを改善したいと感じます。お金や地位を得ることを成功とは考えていず、人助けをしたり、世の中にポジティブな変化をもたらしたり、達成感を得たりすることを成功と考えるタイプです。

腑に落ちすぎる・・・
自分語りになりますが、今まで周りからよく見られたい!とか、裕福な暮らしがしたい!などという欲求がほとんどなく(※高いランニングシューズは欲しい)、ただ自分が好きなこの国、この国の人々、この魚に貢献したいという思いだけで突き進んできました。
ただ、そのモチベーションの源泉が分からず、自分の思いがなかなか伝わらないときなどは、なんでこんなしんどいことをしているんだろう、もっと利益に直結することをやるべきだろうか?とか、自分は体裁を繕うだけの偽善者なんだろうか?と思うこともありました。
しかし、これからは、「そういう性格なんだから仕方ない!」と、開き直ることにします。
覚悟完了!
ということで、今回からINFJ型全開の記事を書き連ねたいと思います!
最近、いろんなところでお話させていただく機会が増え、あわよくば発表資料として活用できればと考えているため、ちょっと長くほんのちょっと専門的ですが、日本の海や魚食文化を愛する全ての人にご覧いただけましたら幸いです。

2022年以降の養殖事情


近年いろんなものの値上がりのニュースを見ますが、我々生産者に最も影響を与えたものが、生産コストの70%を占める飼料価格の値上がりです!
なんと、2022年の間だけで、飼料価格は40%ほど値上がりしています。

漁村ライフを読んでくださっている方には言わずもがな、養殖魚の餌は、カタクチイワシを粉にした魚粉を主原料に製造されています。
2023年6月に、そのカタクチイワシの最大産出国のペルーにて、史上初となる第1漁期漁獲枠の禁漁の発表が報じられたときは、生産者の間に激震が走りました!


もうやめて!生産者のライフはゼロよ!!!


このような状況を受けて、今年、魚粉を使わない無魚粉飼料が、数社の飼料メーカーさんから発売されるようになりました。
これも漁村ライフをご覧いただいている魚マニアの方には周知の事実と存じますが、赤坂水産では無魚粉飼料で育てた真鯛を2021年頃から白寿真鯛0として販売しています。



白寿真鯛0は、そのサスティナブルの取組と、あっさりと甘みのある味、時間が経っても臭みがでないところが評価され、国内外の方々から好評をいただいております。

本編ではこの無魚粉飼料を通じて、私が実現したいことについて書きたいと思います。
その前に、背景として、世界と日本の近年の養殖事情についてお伝えしたいと思います。
とりあず先に、はっきりと断言しておきます。

私たち生産者は、真鯛を養殖してはいけません!

世界の漁業と日本の漁業の現状


人口の増加と共に、動物性たんぱく質への需要は年々高まっっており、中でも水産物への需要の伸びは高く、世界の一人当たりの消費量は50年間で約2倍に増加しました。人口増加による世界の食用魚介類の消費総量は5倍にも及んでいます。
そのため、下図のように、天然の海洋資源は過剰利用状態のものが近年で34%まで増大し、生産量増大の余地がある資源は6%に留まっています。
図表4-4 世界の資源状況
世界の海洋水産資源の状況(FAO)

世界の漁業の漁獲量は、1980年代後半以降横ばい傾向となっている一方、養殖業の収獲量は急激に伸びています。
1985年から2020年までで、漁業の増加量は15%程度ですが養殖業は10倍以上に拡大し1億2千万tを超えています。

図表4-1 世界の漁業・養殖業生産量の推移

農林水産省「漁業・養殖業生産統計」



ここまでは世界の水産業の潮流を見てきました。
養殖業の生産量が大幅に拡大している点が印象的でしたね!

それでは我が国の水産業の状況はどうか。
↓の図をご覧ください。
図表2-1 漁業・養殖業の生産量の推移
農林水産省「漁業産出額」


減っとるやないか!

獲る漁業の減少はグラフを見ただけで明らかですが、1985年の3割程度まで減少しています。
海面養殖業についても1985年に比べ、大体11%ほど減少し、現在の日本の養殖業の生産量は内水面と合わせて100万tに留まっています・・・

獲る漁業の生産量が減っている理由は明らかで、天然の魚が獲れなくなっているからです。
なぜ日本の漁業者が天然の魚を獲れなくなっているのかについては、遠洋漁業の規制、資源管理がうまくいっていない等、色々な理由が挙げられますが、日本周辺の天然の魚が少なくなっていることを知らない方は最早いないでしょう。

では、なぜ養殖魚の生産量まで減ってしまっているのか。
その理由を、3つにまとめました。

日本の養殖魚の生産量が伸びない3つの理由

①養殖業も天然資源に依存していること
養殖の生産量が伸び悩む理由の一つとして、稚魚と餌を天然資源に依存していることが挙げられます。

稚魚

我々生産者は、卵の状態から魚を育てている養殖場はほとんどなく、稚魚を他の企業から購入してして育て始めます。
稚魚の種類は、天然種苗と人工種苗に分けられ、魚種によってどちらの種苗を導入する傾向があるのかが異なります。

天然種苗は、漁師の方が獲って来られた天然魚の稚魚のことです。
マグロ、ブリ、うなぎ、カンパチ、マアジなどは天然種苗が大半で、人工種苗の割合はわずかです。
天然種苗の傾向が強い魚種は、漁獲量が減少する中、導入量を増やしたくても増やせない局面が多々あり、それが生産量の停滞に繋がっています。

一方で人工種苗は、人間が卵から孵化させた稚魚で、陸上での育成を経て海面などの養殖環境へ移されます。
設備や人的リソースの制約はありますが、天然資源の影響を受けず、理論上はいくらでも生産できることになります。(魚卵だけに)
真鯛やサーモン、シマアジ、ヒラメなどはほぼ100%が人工種苗です。

天然種苗
漁師の方が獲って来られた天然魚の稚魚
マグロ、ブリ、うなぎ、カンパチ、マアジなど

人工種苗
人間が卵から孵化させた稚魚
マダイ、サーモン、ヒラメ、シマアジなど

養殖の飼料は、大きく、魚をそのまま使う生餌、練り餌のモイストペレット、ドライペレット(DP、EP)という3種に分けられますが、いずれの餌も主原料として魚を使用しています。
魚の割合が最も少ないドライペレットでも、原料の約40%~60%を前述の魚粉によって賄っています。

天然資源の減少の影響を受け、近年では魚粉割合を30%程度まで落とした低魚粉飼料も販売されておりますが、使用状況は一部の魚種の一部の生産者に留まっています。
魚粉割合は魚種によって異なり、マグロやカンパチ、ひらめ、シマアジなどは割と肉食な傾向があり、魚の割合が高くなければ育ちません。
一方で真鯛やサーモンは、魚粉割合が低くても適切な低魚粉飼料と適切な給餌方法をとれば、高魚粉飼料と同等レベルの効率で成長してくれます。
近年では、この魚粉の原料となるカタクチイワシの減少や、需要の拡大、さらに長期的な円安傾向により、魚粉の価格が大幅に上昇しており、要求する魚粉割合の高い魚種ほど飼料価格が高くなり、ブリなどは相場が損益分岐点を越えているかいなかは、非常に怪しいレベルになってきています。
魚粉=天然資源への依存度が高い魚は、サスティナブルな視点の前に、経営が成り立たなくなる可能性が高いです。

一方で、近頃は全ての原材料が値上がりしているため、植物性たんぱく質も、かなり変動の大きいイメージがあるかと思います。
下のグラフは植物性たんぱく代表格である大豆と魚粉の価格の変動の推移になりますが、ご覧いただける通り、魚粉の変動率が大豆の変動を圧倒しています。

(単位:$メートルトン、青色実線=魚粉 茶色点線=大豆ミール

 


経営の視点で雑に説明すると、飼料代は養殖業経営における変動費の大部分を占めており、変動費の先行きが天然資源に依存した不透明な状態では、スケールメリットが機能しづらくなります。そのため、生産規模を拡大するという経営判断が生じず、生産量が伸び悩む原因に繋がります。

②養殖可能な水域が狭く、生存率が低くなる
先ほど見た通り、人工種苗を主体とした魚種であれば、少なくとも稚魚は天然資源の影響を受けず、増産が可能です。
しかし、その多くの魚種が、養殖可能な水域が狭いため、産地が限られるため生産量の拡大が難しいです。
魚の生存条件には水温がとても重要で、例えばサーモン、ホタテなどは、水温が15℃を越えてくると飼育が出来ません。
逆にマグロやブリなどの青物、ハタ類は、冬場の水温が15℃以下となる海域での飼育はとても難しいです。

地域や季節によって水温の変化に富む日本の海では、上記の魚種はどうしても養殖可能な産地やタイミングは限られてしまいます。

水産に詳しい方は、「それじゃあ、陸上で養殖すればいいじゃん!」と考えると思います。
ヒラメは、弊社でも開放式陸上養殖という方法で、水温変化の影響を受けづらい底部の海水を取水して陸上養殖をしておりますが、デリケートな魚で、やはり高水温時は非常に飼育が難しくなります。
海水すら自分で生成したものを使用する閉鎖式陸上養殖という方法も、サスティナブルな養殖方法として近年脚光を浴びておりますが、海面養殖や開放式陸上養殖に比べ、莫大な初期費用がかかるうえ、円安の影響で高止まりする電気代や水道代をいかにペイしていけるかが、課題となっています。

さらに!最も厄介な問題は、水温等の環境の変化が年々激しくなってきていることです。
これにより、各所で「今まで順調に飼えていた魚が死んでしまう、飼えなくなっている」という話を聞きます。

ここまでをまとめると、日本の養殖業が生産量を伸ばせない理由は以下になります

日本の養殖魚の生産量が伸びない3つの理由
①養殖業も
天然資源に依存していること
②多くの魚種において、養殖可能な水域が狭く、生存率が低い

逆に、これらの原因をクリアできる魚種は、日本の海面養殖において増産の余地があるといえます。
果たしてそんな魚種があるのでしょうか?
どんなマニアックな魚種だろう?
実は、皆さんご存じの「真鯛」こそが、この①、②両方をクリアできる数少ない魚種なんです!

真鯛はめちゃくちゃTOUGHな魚

真鯛が実は生存可能水域が広く、なんでも食べる丈夫な魚であることは、あまり知られていません。
養殖魚の生存可能な水温範囲は狭いのですが、真鯛は水温が7℃~30℃でも生存可能な数少ないメジャーな養殖魚です。そのため、関東以西の大体の海で育成出来ます

写真:マダイの分布域図
マダイは日本近海に生息するタイ科魚類の中で最も分布範囲が広く、北海道の一部や琉球列島を除く日本全域、朝鮮半島・中国沿岸、東南アジアの一部まで生息しています。
(せとうちネットより引用)

シマアジなどは青物の中でも比較的養殖水域が広いのですが、高温期に病気が発生しやすく飼育難易度が高いです。
陸上養殖のヒラメの飼育も、温暖化が進み年々難しくなっています。
コロナ禍を思い浮かべていただければ想像がつくと思いますが、生存率の低い魚の魚種、つまり病気の発生しやすい魚種の飼育には、想像以上の人的リソースとお金が必要となります。
これも生産の拡大を阻みます。
しかし、真鯛は2年という長い養殖期間を要するにも関わらず、広い海域で生存率が90%を下回るということはあまりありません。

あらゆる環境への適応!!最強の後出し虫拳!!


さらに、この真鯛という魚、100%人工種苗を用いて育てられております。
また、ここがすごく特殊で大事なんですが、雑食かつ長い育種の歴史により、魚粉が少ない餌でも、給餌の工夫や、飼料の構成、種苗の選別次第で育ってくれます。
他に魚粉割合が30%を切る餌で育てられる魚は、メジャーどころだとサーモンくらいしか聞きません。
よく、ヒラメも無魚粉で育ててと言われますが、給餌しても見向きもしないため、間違いなく太らせることが出来ません・・・
そのため、天然資源への依存度がとても低い、持続可能な魚種といえます。

日本という領域においては最強の魚、真鯛。
真鯛は、そのTOUGHさにより、この変化に富む日本の海においてもまだまだ増産可能な数少ない魚種であり、一部の県だけでなく、多くの地域の漁村を活性化させる力を秘めています。
この魚をみんなで作って、日本の養殖業の生産量をガンガンあげていきましょう!!



・・・とは問屋が卸しません。
そこには日本の養殖魚、特に「真鯛」の生産量が伸びない最大の理由が、課題として立ちはだかります。

真鯛の生産量が伸びない最大の理由

真鯛は天然資源への依存度が少なく、地域や季節によって変化の激しい日本の海の広い範囲において、高い生存率で養殖できる、ガチムチな魚だということはご覧いただけました。
では、なぜ生産量を伸ばすことが出来ないのか。

真鯛の生産量、種苗導入尾数、成魚価格の推移を表した下のグラフを見てください。

真鯛生産量:農林水産省 海面漁業統計調査より作成
種苗導入尾数:ACNレポート種苗導入速報より作成
成魚価格:東京中央卸売市場統計情報より作成

真鯛はそのタフさゆえに、種苗導入尾数が2年から3年後の出荷時の生産量に直結します。
グラフでは、2003年や2008年、2014年、2020年など、5年から6年のスパンで生産量が拡大する局面が度々見受けられます。
しかし、これらの年に共通して言えることは、前年に比べ成魚の価格が大幅に下落しているということです。

2006年からを例に、どのようなことが起こっていたかを↓にまとめました

Do until 生産者にマーケットへの意識が根付くとき
種苗導入量が増える(2006年)
⇒2年から3年後の生産量が増える(2008年)
供給過多により値崩れを起こし、値段が下がる(2008年)
⇒生け簀が空かない&資金がなく種苗導入量が減る(2008年、2009年)
⇒2年から3年後の生産量が減る(2010年、2011年)
⇒供給が減り、成魚価格が上がる(2010年、2011年)
⇒生け簀が空いており、資金に余裕があるため種苗導入量が増える(2011年、2012年)
⇒2年から3年後の生産量が増える(2014年、2015年)
供給過多により値崩れを起こし、値段が下がる(2014年、2015年)
以後繰り返し(loop)

調べていただければ分かりますが、上記と同じ動きを大体30年近く繰り返しているのが真鯛養殖の現実です・・・
このことから、真鯛の市場が既に飽和状態であることが分かります。


ちょっと待ってくれ!
なぜ供給過多に陥るんだ!?
世界の水産物需要は50年間で急速に拡大しているんじゃないのか!?
世界的にたんぱく質の供給が足りず、虫まで食べなければいけない未来が待っているんじゃないのか!?
と思われる方もいると思います。
しかし、悲しいことに、実は日本の真鯛は、日本(と韓国)以外でほとんど売れない魚なのです!

真鯛の国内販売量と輸出量の内訳の推移(単位(t))



輸出量のシェア

そのため、国内(と韓国)のキャパを生産量が越えてしまうと、すぐに値崩れし、種苗を導入するお金がなくなり、生産量が伸び悩むということを繰り返しているのです・・・
さらに、近年では、頼みの綱の内需も、人口の減少に1人当たりの消費量の減少もあいまり、減少の一途を辿っております。

1人1年当たりの魚介類品目別家計消費の推移(全国):水産庁が作成




日本の養殖業の生産量が伸びない最大の理由は③増産しても売れないからです!
真鯛がいくらどんな環境でも適応できる最強の魚だとしても、売れる見込みがなければ増産すべきではありません。
30年以上前から生産者がなぜ同じ過ちを繰り返すのか?
また、なぜ海外では売れないのか?
既にめちゃくちゃ長くなってしまったので、この辺りの構造上の問題は後編でお話できればと思っています。

国内市場が顕著に縮小する中、今までと同じように真鯛を生産し続けても、生産者と日本の水産業に未来はありません。
生産者は、日本の海と自分自身のために、〇〇〇〇を生産すべきです。





補足
持続的養殖生産確保法などの種苗導入尾数の制限はありますが、それを管理されている水産庁が、2030年の真鯛の生産目標を11万t(現在6万tほど)に設定していることもあり、近年の指針としては、販売の目途が立っていれば(マーケットインな取組が出来ていれば)真鯛の生産量は増やすべきだと考えられています。



関連記事一覧